村野藤吾のファサード④ 繊維輸出会館(大阪市中央区)


戦前戦後を通じて
第一線で活躍した
日本人建築家は、余りいません。
村野藤吾は、

そんな珍しい建築家の一人。

外観のいかにも現代建築…

西玄関にはユニークな
ドーム状のキャノピー

繊細でメカニカルなデザイン。

「船場建築線」よりも
 さらに内側に後退して計画され、
 これにより生み出された
 “引き”のスペースは、
 植栽などの無いドライな
 オープンスペースとして
 クールな印象を
街に与えている。」

「船場建築線」とは、
船場地区において、
その歴史と需要を踏まえて
1939年(昭和12)に設定された
壁面後退線のこと。
このお蔭でゆとりのある
街並みが生み出されました。

西側階段を降りると…

こんな感じらしい。
人目につきやすい空間の
主役となる階段を、
村野は「華階段」と呼んだとか。

「地下1階ロビー」は、
豪華客船を思わせるような雰囲気、
壁面や天井にも、ふわりとした曲面。
地下空間の閉鎖性を感じさせない。

西側玄関で使われていた傘立
金属の光沢の中にデザイン性の
秀逸さがいい仕事!



南玄関を入ると…ソトとウチに、
ギャップを感じさせる設え。

繊維関係の貿易商社の
拠点であることに由来するもの…

海や船のイメージが
ちりばめられています。



3~4cm四方のガラス製タイルが
貼り込められるのは、
堂本印象(1891-1975)の
手によるもの。

地下のサロンの壁面に
掛けられたタペストリーも、
堂本印象の原画になり、
世界七大洋を
イメージされたもので、
大阪の繊維産業の
繁栄ぶり
伝えています。




村野が手がけた椅子。
村野藤吾という人は、
直接ひとの身体に触れる
家具にも強いこだわりを
持っていたそうです。
ワンピースを着た女性
のようにも見えます。

こちらは座面が低く、
奥行きのある「安楽椅子」。
会議室全室に置かれた、
空間のなかに家具を
どう配置するのかまでも、
計算し尽くされたということ。

外観に戻ります。
「道路レベルの1階部分
 外壁においては、柱回りに
 ディテールデザインへの意志を
 感じることができる。」と…

コーナー部の面取りと段差、
素材であるトラバーチン
単一素材のシンプルな壁面に、
細やかな格調高さを醸し出す。

軽やかな印象が紡ぎだされる、
繊維という名のビルに相応しい。

「輸出繊維会館」
建築年:1960年(昭和35)
設計 :村野藤吾(村野・森建築事務所)
構造 :鉄筋コンクリ-ト造り、
    地下3階 地上8階建て、塔屋付。
所在地:大阪市中央区備後町3-4-9

※トラバーチン
大理石の一種。
緻密(ちみつ)な縞状構造をもつ。
湧泉(ゆうせん)や地下水の
炭酸カルシウムが沈殿してできる。

※参考文献
『村野藤吾のファサードデザイン
 図面資料に見るその世界』国書刊行会,2013年
「素材と形から紡ぎ出される『船』」角田暁治

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