神戸山の手をあるく〜国立神戸移民収容所

「神戸山の手」は、
異人館だけじゃありませんでした。
シンプルなモダン建築は、
神戸港から海を渡った移民さん
たちの旅立ちの場所、
もと「国立移民収容所」。
ブラジル移民船 笠戸丸が
神戸港を出航してから、
2008年がちょうど100年だったそうです。
移民さんと親しみを込めて
よばれた人たちが、
日本での最後の10日間程をすごした場所。
設立当初の名は「国立神戸移民収容所」、
ただ捕虜収容所を連想させるとの声もあり、
間もなくて、
神戸移民教養所」となったそうです。

実は全体の4割の南米移民が、
神戸港から旅立ちだったそうですよ。

その後「外務省神戸移住斡旋所」、
「神戸移住センター」といった具合に、
時代の流れに応じてその名を変えました。
ブラジル移民船「ぶらじる丸」の
1971年5月の神戸出航を契機に
神戸移住センターは閉鎖されるまで、
ブラジル移民の拠点でありました。

高度成長期となって役目を終えたあとは、
「神戸市立高等看護学院」、
「神戸市医師会准看護婦学校」として、
神戸の「看護師さん」の養成施設となります。

外観はすっきりした面構え。
設計を手がけたのは
兵庫県営繕課に所属していた、
主に関西で活躍していた
置塩章
(おしお・あきら)さん。
巨大な柱に支えられた玄関ポーチの装飾。

鶏のとさか?のようなデザインは、
いったい何を表しているのでしょうか?

庇下まわりもなかなか凝っております。

現在は
海外移住と文化の交流センター」。
関西ブラジル人さんたちの
コミュニティとなっています。



低い天井にむき出しのダクト、
あえて長い船旅に慣れるために、
船内に似せた造りになっているようです。

洋式建築からモダニズムに移行する
過途期のしつらえのようで、
なかなかいい表情をみせています。

とりわけ吹き抜け階段のアールは、
なかなかの秀逸でアールヌーボー風

ガウディの世界に通ずる曲線美のようです。



ところで…
芥川賞の第1回受賞作品は、
これから始まる移民収容所での日々から
綴られた石川達三『蒼氓』なのです。

「一九三〇年三月八日。神戸港は雨である。
 細々と烟る春雨である。…
 三ノ宮駅から山ノ手に向う赤土の坂道は
 どろどろのぬかるみ…
 この道が丘に突き当って行き詰ったところに
 黄色い無装飾の大きなビルディングが建っている。
 …是が「国立海外移民収容所」である」
(石川達三『蒼氓』改造社 1935年)より



内部のほとんどが収容室であったようで、
当時のベッドが設置され再現されていました。


2階3階の西側は創作室やギャラリーに…
あらたな拠点となっていました。

「国立神戸移民収容所」
→「海外移住と文化の交流センター」
建築年:1928年(昭和3)
改修年:2009年(平成21)
構造 :鉄筋コンクリート造、5階地下1階
設計 :兵庫県営繕課(置塩章)

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