Randy Bass バース本塁打傑作選 VOL.2

Randy Bass バース本塁打傑作選 VOL.2


















1986年10月12日
 対広島25回戦

 峠 越 え


「まだ、わからんぞ。」
マジック点灯から21年ぶり
阪神悲願の優勝ムードが高まる中、
二位につけていた
広島・古葉竹識監督は内心そう思っていた。
ペナントレースも大詰めをむかえた
10月、阪神のマジック減らしの
スピードは失速してきた。
9月30日、広島が敗けて8になった
マジックは10日過ぎても5。
中でも10月1日、2日に直接対決で
    連敗したことが痛かった。
ゴール目前、投打がかみ合わず調子に
     乗れない阪神を尻目に、
その後、広島は打てない時は
好投と堅守で凌ぎ、二転三転の打撃戦は、
僅少差で逃げ切るしぶとい野球を見せ、
六連勝を飾っていた。
「まだまだ阪神を苦しめる。」
古葉監督の言う通り、一時は7ゲームも
差があった1位と2位の差は
4.5にまでなり、
なにより両監督の胸の内は数字程
       開いてはいなかった。

「優勝のプレッシャーでしょうか。
 選手たちにはいい薬になります。」
        と言う吉田・阪神を、
逆転優勝へのわずかな可能性に賭けていた
   広島が本拠地に向かえた最終二連戦。

カープの命運をかけて、タイガース・キラー
北別府が先発したが今一つ調子が出ず、
試合は追いつ追われつのシーソーゲームになった。
平田のヒット、岡田、真弓の長打で
得点をあげる阪神に、
最後の力をふりしぼってピタリ、
ピタリ追いついてくる広島。

がっぷり組んだ七回裏、広島は不調
北別府に代え、大野を投入した。
この回の先頭はバース。
1−2後の低めのスライダーを
コンパクトなスイングでとらえ、すくいあげた。
打球はセンターへのびる。
115.8と書かれた
中堅フェンス前で待ち受けていた長嶋がジャンプ。
だが打球はグラブの上方を、
ゆっくりとバックスクリーンへ。
快進撃の立役者となり、
牽引車として活躍してきた大男は、
今また、その逞しい腕で阪神をかついで、
最後の峠をも越してしまった。

試合後、
「勝てると確信しています。
 一気に行きたい。」と吉田監督が
大勢の報道陣の前で「優勝宣言」をした後、
ファンの大歓声に応え、意気揚々と球場を去る頃、
一塁側ベンチ裏では
「連勝が絶対条件だった」と唇を噛む、
古葉監督の終戦宣言が低く響いていた。

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